加藤さん小説感想まとめ(オルタネート以前)

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加藤さんの「オルタネート」が吉川英治文学新人賞を受賞した。リアルタイムでライブ放送を見ていたけれど、受賞会見の受け答えが素晴らしすぎて、陳腐な感想で申し訳ないけれど、感動した。

ファンになった時期がピンクとグレーでデビューする直前だったこともあり、全ての著作をリアルタイムで読んできた。「ピンクとグレー」と「閃光スクランブル」は一生懸命感想をまとめて残している。

「ピンクとグレー」感想【ネタばれなし】
今更「ピンクとグレー」感想【ネタばれ】
閃光スクランブル感想(ネタばれ多分なし)

「Burn.」以降の作品についてはツイッターで感想を書いたり書かなかったり。今回会見を見て感動した勢いで「オルタネート」の感想を書き残したくなったのだが、その前に自分の記録として、これまでの小説作品の感想をまとめておくことにした。

「Burn.」以降書いていないのは理由がある。実は私は「Burn.」を読むのに少し苦労したのだった。それまでは感想を書くためにもう一度読み直したりしていたけど、「Burn.」は読み返すのが辛くて感想を書けなかった。"子役だった主人公の封印された子供時代の記憶"。著者曰く「人が子供になる話」と「人が大人になる話」だ。とても綺麗で良いテーマだと思う。でも私は当時、著者が描きたいものに自分がたどり着けていない、という感覚を抱いてしまった。もちろん主人公の設定と描写に著者の経験が生きていて印象的な表現はたくさんあるのだけれど、母親世代の人間として出産する妻や母親の描写に違和感があったり、自然に話が展開しているというよりは、展開させようとしているような印象があって、読んでいて息苦しかった。この作品を生み出すのに苦労した、と著者が語っているのを読んで、そういう部分を感じ取ってしまっているのだろうか、とも思ったけれど、感想を検索するとこの作品が一番好きという人も大勢いたので、感じ方はもちろん人それぞれだ。未読の方は是非読まれることをお勧めする。

それ以前はまるでグッズか何かのように保存用と2冊買っていたけれど、この単行本は1冊しか買っていない。(もちろん文庫は別に買ったけど。)多分その頃から、私はNEWSの加藤君が書いた小説と言うよりは、若い作家の本と捉え始めていたのだと思う。
今回、文庫版の「あとがき」「解説」「刊行記念トークイベント(の書き起こし)」を読み、悩み迷って粘って書いたこの作品があるからこそ今の加藤さんがあるのかもしれないな、なんて思った。


「傘をもたない蟻たちは」と「チュベローズで待ってる」は、ツイッターで少し感想を書いていた。

「傘をもたない蟻たちは」は短編集なので、最初に発表された時に書いた感想や、単行本化された時に書いた感想が残っていた。それらを簡単にまとめるとこんな感じだった。(ツイッターだから雑)

染色
圧倒的な才能をもつ人に惹かれつつも、変化から逃げてしまうという心理と、喪失感の描き方が好きだった。生きていると結局わからないまま終わってしまうことの方が多いから、想像する余地が残るところも好きだ。

Undress
連載で一度読んでいるのでどうしても差分に意識がいってしまう。もっといろいろ下衆かったよなとか。個人的には、雑誌掲載時からこの話には窮屈さを感じていたが、サラリーマンの話だからという単純な理由かもしれない。

恋愛小説(仮)
映画の「ミッション:8ミニッツ」で8分とか時間で制限したようなものを、「ミッション:200文字」的に文字数に置き換えているところが面白い。そして、それが小説中実際に並ぶところが、視覚的に美しかった。最初、文字数からこぼれてしまって、数を詰めていくところも良かった。

イガヌの雨
私は著者の描く女の人はほぼ誰にも感情移入したことないのだけど、この主人公の女の子に初めて少し感情移入した気がする。食の純潔守って!みたいに。「食がテーマ」といわれ、「食の官能」と「欲望の醜さ」を描くあたりが著者らしいなと思った。

インターセプト
1回目読んだ時は、「伏線と回収」や「デフォルメ」が強い小説であまり深みを感じなかったので、こういうやりすぎじゃないのが良かったな、と思ったけど、何度か読んだら感想が変わった。
著者のことを小説の登場人物と重ねて読まれることを承知の上で、あえて「テレビの中にいた」とか「本当に待ち受けにしたい画面」とかの文章が仕込んであるように読めてきたのだった。著者への思いが強い読者ほど、小説の登場人物として「読者自身が引きずりこまれる」という仕掛けなんじゃないだろうかこの小説は。仕掛けるアイドル恐ろしい。
あの文体も、本性を隠してかわい子風に振舞っているけど、過剰なデカ目加工や細身加工で人間離れしてしまったプリクラのバケモノ風な壊れた人格を描く効果があるような気がする。独特な生身感のなさというか。アイドルへの溺愛ファンとかの書き言葉から絵文字を除去してもあんな雰囲気になるかもしれない。

にべもなく、よるべもなく
文体、思考、行動に、息苦しいほど思春期が詰め込まれていた。理屈でなく受け入れ難い気持ちが嘔吐となってしまう当時の感覚が蘇ってくるようだった。その頃には何なのか全く理解できず、時間が経過しいろんなことが自然と薄まって初めて、客観的な言葉で語れる、本当にしんどい時期だ。
そんな蘇る思春期の記憶から逃れるために、「妄想ライン」をこの小説に全部埋め込む意味を考えたりしていた。多くのファンは、「妄想ライン」が著者の高校時代の作品と知っていてその頃の著者を思いながら読み、登場人物も作中で熱量を持ってその文章を読み込む。この物語が始まるきっかけとなり、記憶の栞のような役割もする作中小説。
それは本当はどんな話でも成り立つはずなのだが、作家になって自分の昔の作品を読み、それを直さずにはいられない著者がいて、思春期の登場人物もその文章について評論しているという、不思議な構造。
そういう事前知識全くなしで読んだら、この作中小説の存在についてどう思っただろう。

また、「チュベローズで待ってる」については読んだ時こんな感想を書いていた。

左目の黄斑の手術をして退院後、最初に読んだのが「チュベローズで待ってる」の2冊だったわけだけど、素直に「読書は娯楽だね。なんとか死ぬまで自分の目で文字を追ってこうやって楽しんでいたいものだね」と思った。
「チュベローズで待ってる AGE 22」は連載を加筆修正しただけあって、飽きることなく話が展開していき、怠くなることなく楽しく読める。描写も、特に最初の紅生姜とか凄くいい。
「チュベローズで待ってる AGE 32」は書き下ろしなので「AGE 22」より最初少し怠く感じた。未来の話なので技術用語に若干不安を感じた部分もあった。でも、もやもやが解決する気持ち良さや、想像を超えてくる展開があり、とにかく続きを読みたくて、読んでるうちに楽しくなって細かいことが気にならなくなった。
また、私のように短期記憶がやられて人の名前を覚えていられないような読者でも読めるように、なのか、登場人物の名前の文字種と文字数を変えて印象で混ざりようがないように書いてくれているのが、本当にありがたかった。
加藤さんの小説はいつも女性の人格が小綺麗すぎる、と思っていて、AGE 22の方はまだその不満を持っていたのだけど、AGE 32で美津子の人格になんとも言えない「歪み」が見えてきたのが良かった。


以上、単行本になっていない小説など何作か抜けているけれど、ここまでの感想まとめ、になる。時間に余裕ができたらまたまっさらな気持ちで読み返してみたいけれど、その前にまた新作出してくださるかな。