プリティプリティ

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 「プリティプリティ」という少女漫画雑誌があった。いったいいつ創刊したのかさえもはっきりしない。私の記憶では、創刊2号で休刊になったはずだ。
 その雑誌が創刊されているのを見たのは、私の家から当時最も近くにあった「大阪屋書店」という名前の古びた本屋だった。その本屋はかなり古い木造建築で、売り場は狭く、品揃えもとりたてて良いわけではなかった。しかし、私は書店巡りの最初の店、もしくは帰宅途中に巡る書店の最後の店として必ず寄っていた。
 新しい雑誌というのは魅力的である。その号から買えば創刊号から本棚に揃えることができるからだ。しかし、その書店で目にした新創刊漫画雑誌「プリティプリティ」は、当時の私にはおおよそ理解しがたいものであった。
 普通(というかその頃の私の常識では)、新刊雑誌は目玉の作家がいる。他紙で活躍した実績と人気のある漫画家だ。しかし、少女漫画は多少は知っていた私にも、見たことも聞いたこともない人達だけが描いている不思議な雑誌だった。ぱらぱらと見てみる。しかし、絵柄が当時の漫画にして異質な感じがした。はっきりは覚えていないが、表紙の絵も男の子と女の子の有りがちな少女漫画イラストのはずなのに、デザインも絵柄もどことなく異様だった。とにかく、時代を無視した感じがした。
 雑誌名は「プリティプリティ」。表紙のどこかに、「プリプリって呼んでね」なんてことが書いてあった気がする。私はその「プリプリ」を買って行く人がいるということが全く信じられなかったので、「これは、創刊号だけかもしれない」と、勝手に休刊予測を立てた。
 しかし、しばらくして私はその雑誌の2号を大阪屋書店で見つけ、自分の目を疑った。そして反省した。需要はあるのだ。世の中にはいろんな漫画が好きな人がいるのだ。私の知っている世界なんてちっぽけなものだ。

 その雑誌はその2号以降全く見かけなかった。成長して考えると、あの雑誌はもしかしたら同人誌系だったかもしれない、という気がする。しかし、そんな同人誌系というほどいいもんじゃなかったような気もする。買ってもいないしその中の作品を何一つ読んでいないのに、20年以上も名前だけが記憶に居座っている。木造の大阪屋書店は今はあとかたもない。

 ところで、WEBで検索した結果、1件だけ見つけた。この雑誌を探している人。その人が若い頃アルバイトで書いた漫画が載っているらしい。原稿料も踏み倒されたらしい。数年前にこの本を古本屋で見かけたが誰かに買われたらしい。私も表紙だけでも見てみたいものだ。