手越くんの「AVALANCHE 〜雪崩〜」の感想

8月5日は休みだったので、電車に乗って朝早くから開いている書店に行き、加藤くんのエッセイが掲載されている「ベストエッセイ2020」と、娘に言われた手越くんのフォトエッセイ「アバランチ」を買った。そして帰宅後、気になっていたアバランチを読み始めた。良い本であれと願いながら。

私はNEWSファンなので、それを抜きにしてレビューするのは難しい。とりあえず、1人のNEWSファンとしての感想を書いてみる。

私は4人になった時からのファンなので、私のファン歴は4人で活動した期間とほぼ重なる。雑誌のインタビューも収集し読んできたこともあり、NEWSについて書かれている部分にダメージを受けた箇所はない。在籍当時語っていたエピソード、そして、語ることが許されなかっただろう2年前のことなどが語られていた。著者の言動も、描かれている3人も、私が持つイメージと特に違わない大好きな4人だ。

私の視点でNEWSを見てきたあれこれがあって、こうして中の手越くんの視点で書かれたものまで読んでしまうと、私はこの本と自分の記憶にある素材で、勝手に3人の視点の物語を再構成してしまいそうになる。

「嘘がつけない」というのは一般的に良いこととされるけど、生きていくのには実は厄介な正義だな、なんて手越くんの動画を見ながら最近思っていた。でもこの本を読んで、一種の呪い、と思ってしまった。そうしなくてはいけないという呪縛。嘘をつけないことで本人が生きづらさを覚えるかはわからないけど、周りは常にハラハラする。彼を守るために、喋りを制止したり、横で突っ込んだり、編集したりして破綻しないようにするかもしれない。なんだかよく見た光景のような気もする。

でもその反面、嘘をつかないという保証のある人のストレートな言葉なら、褒められたら心から嬉しいだろうし、叱咤激励されたら傷ついたとしても頑張ろうと思えるだろう、と想像する。自分では決して言えないような気持ちを真っ先に代弁してくれることで、その人が盾になって救われるようなこともあるかもしれない。

そんな「嘘をつけない呪いをかけられたアイドルと、彼を守ろうとしていた周りの人達の物語」というおとぎ話のようなものを勝手に構築して透かしてこの本を読むと、過去見聞きした3人の言葉の意味が感じ取れるような気がしたし、著者の物事の捉え方の端々に「3と1に分かれる運命」の存在を感じてしまい、読んでいて切なくったりもした。手越くん、ちょっと自分の気持ちを違う方に騙してバランス取らないと、大好きなNEWSやメンバーと完全に決別することになりかねないよ。これを読む限り、3人も絶対君が好きで一緒にNEWSであり続けたいと思ってたよ、なんて声をかけたくなる。全部勝手にだけど。

私が創作したストーリーでは、呪いは本人が自分で気がついたときに解ける。それは小山くんが書いていた言葉に倣ったものだ。そんなことを考えながら読んでる私とは無関係に、著者は本当に無邪気に明るく屈託なく、ツッコミも入れたくなるような夢を語っているから、ああ、手越くんは手越くんだねえ、なんて思っていた。

ただ、読みながら流していた発売日の11時からの会見には、その屈託のない手越くんとは少し違う人がいた。過去については本を読んで欲しい。NEWSの歌は今後歌わない。なんだろう。彼の中で何かが起こったのだろうか。

本自体の感想を言うと、彼の視点で語られる関係者への感謝、思い出、報道の訂正、そして新書でよく見る評論のようなものが混在している。その評論テイストな部分に「お前が言うな」という猛反発が来ているんだろうか。事務所や芸能界についての視点としてすごく変でもすごく目新しいものでもない内容で、何も感じず読み進めていたので、娘から叩かれまくっていると聞いて、最初はへえ、と思った。また、実名を出しているだけで暴露本とか適当なことを言われているのは気の毒だと思う。でも報道の訂正は実名出さなくても文章力で面白くできたのでは、とか、内容を吟味して炎上せず質で売れる本をじっくり出したほうが絶対よかったのにな、とかも思う。スピード感も、一種の呪いなのかもしれないなと。

また、彼の武器である愛される笑顔や、誰かがツッコミを入れて全体に漂う俺様感をカバーすることもできない、書籍というものの難しさも感じた。でも、なんだか訳がわからない一生懸命さのある本だった。(ひとつ付け加えるなら写真はとてもいい。) 手越くんは多分致命的に何か足りてないけど、邪悪なものは一切感じないので、この本を読んでも負の感情が湧いてこない。正直怒る理由がない。手越くんのこの少し変わった個性と、NEWSに対する強い思いがなかったら、先日の3人の力強い「生きろ」も、おそらく存在しなかったのだから。



ジャニーズのファンは多分、変化やスピード感に慣れていない。偶像としてのアイドルを大切に飾って、明日も今日と変わらず愛でていたくて、その幸せが失われることを常に恐れているんだと思う。私自身もNEWSを好きになるまでそんな気持ちになることはなかったから、ジャニーズのエンタメが持つ強い光の中毒状態なのかもしれない。来年も再来年も私が生きてる限りアレをくれ。あのキラキラした幸せな時間をくれ、という感じ。

4人を愛でていられる時間がいつどんな形で終わるのかは私も今まで何度もシミュレーションをした。結局手越くんの退所でそれは終わったわけだけど、3人の言葉の意図するところが掴み切れていなかった私のモヤモヤは、この本を読んで少し解決したように思う。書籍としては不満はいろいろあるけれど、私が大切にしていた物事が別に間違いでないと感じたから、読んでよかったと思っている。

今まで私の中では、NEWSの4人のバランスの良さを可視化するならば「2次元平面に2軸をとると4つの象限に綺麗に分布する人たち」だった。顔立ちや個性などそれぞれが違うタイプだから、人数が少ないけどいろんなファンを集められる最強の4人だった。(その分ファンが他者を否定する光景も嫌になるほど見てきたが)

でもこの本を読んでようやく、3次元空間内のジャニーズ平面にある正三角形と、平面外の少し遠くにある一点というように、可視化し直せたような気がする。私はその三角形と一点が、正四面体に見える日が来るといいな、なんて、どこかで思っている。

思うのは自由だからね。

(2020.8.10 一部修正)