梅雨の日

 思慕というのがひどく悲しくてたまらなくてわたしは
 ずっとむこうから走って息を切らしてここへ隠れた
 いつもここは陰があって涼しくて
 私の全速力を浄化してくれる

 昨日のような梅雨の日
 傘を持ってなんとなく歩きながら意識を清書していると
 自分の投与していたとっくに致死量など超えたはずの嘘が走って息を切らして抱きついてきて
 何かを叫んでとたんに消えた
 寝不足で非常に寂しかったわたしは
 ハンカチで傘をふいてそれを雨の中両手でしぼった
 こういう日がわたしを染めきらないうちに
 夏が早く来てしまえばいいと思った

 誰かが言った言葉に鳥の刺繍をして静かな聖歌を歌えば
 ずっとむこうの空でくすだまが割れた時のように極彩色が散った
 目に付いたスイッチをすべて切ってきたわたしの手作りの無風地帯は
 居心地が良すぎて重力さえも感じない


 新潟日報読者文芸 82年か83年頃に掲載。
 しばらく詩が全然採用されなくなりました。辞書読んだりして言葉ありきで無理やり詩っぽいモノを作ってた頃です。選者の山本太郎さん曰く、「新奇なレトリックに気をとられていた」という状態。
 この詩はちょっと印象的な出来事があって、それを元にわりと自然に書いたものでした。ですから今読んでもそんなに恥ずかしい気持ちにならない、数少ないものです。