画鋲

 学級写真が壁にはってあって、みんなが得意な笑顔を並べてた。でも、画鋲、いつのまにか私の顔の上に来てた。あんまり強くささっているんで、とれなくて、指が痛い。
 きっと咲子たちだ。絶対そうだ。裕ちゃんが言ってた。咲子たちが私のことそうとう悪く噂してるって。私、何もしてないのに、なんでそんなふうになっちゃったんだろ。咲子たちはいつもそうなんだ。だれか一人いじめてなくちゃ気がすまないんだ。裕ちゃんだって言ってる。咲子たちなんて大嫌いだって。私だって大嫌い。でも私、無理して笑って仲間になってた。だって咲子たちに嫌われるのが怖かったんだ。こんなふうになるのがすごく怖かったんだ。咲子たちってすごく過激だもの。あの人たちににらまれていじめられて孤立した人いっぱい知ってる。だから私、あんなに…。
 画鋲とれない。ひどいよ、もう。写真がそうとういたんだ。もし画鋲がとれたって、この写真の穴はずっと残る。嫌だ。私が嫌われている証明みたいだ。この写真見た人は、私がいじめられっ子って思っちゃう。そうすると、絶対私を見る目が違ってくるんだ。咲子たちが怖くて、私を避けるようになる。そうすると私、孤立…。
 ああ、一年生の時はよかったなあ。小学校からの仲良しの子がいたし、あのクラス最高だった。だいたい咲子たちみたいな人、いなかったもの。でも二年生になる組替えの時すごくショックだった。仲良しの子がだれもいなくて、まわりの子たちはみんなグループくんでいて、私、とけこもうと必死だったんだよ。咲子たちのグループ、裕ちゃんたちのグループ、真砂ちゃんたち、それに佐川さんたち、もうぐるぐるまわってた。でも、みんなもう輪ができちゃって、私の居場所なんてなかった。いつも疎外感だけが残るんだ。しっくりいくひとたちがいない。落ち着いて仲間といえる人たちがいない。ものすごくさみしかったんだ。
 もうすぐ三年生。中学最後の学年。来年こそ私新しいクラスでがんばろうって思ってたのに、二年生の最後にこんなめにあうなんて、ついてないよ。はっきり言って今のクラスなんて大嫌い。咲子たちは特に嫌いだ。裕ちゃんだって私の味方みたいな顔してるけど、本当は違うんだ。このクラスの人たちでいい人なんか一人もいやしないんだ。無理してとけこもうとして、笑顔つくって、つまんない話に違和感を隠してうなずいて、ああ、なんてばかなことしてたんだろう。そのあげく、「八方美人」なんて噂されてこんな、ひどいこと。
 ふう、やっととれた。手がひりひりする。でも何? これ、写真の顔がめちゃくちゃじゃない。この日はまだ二年になったばかりで、私はまだこんなになること考えもせずに、とびきりの写真用の顔つくったんだ。髪の毛もこんなに短くて、こんなに初々しい。なのにとびきりの顔が全然わからなくなっちゃった。あのころの私までめちゃくちゃにされちゃった。みじめじゃない。この写真の子、笑ってたのにひどすぎるよ。
 嫌いだ、嫌いだ、おまえら全員大嫌いだ。いつも私を見下して適当にあしらってたくせに、またこんな陰険なまねして人をいじめるなんて、そして一人をいじめることでおまえらは優越感が味わえるんだ。でも私はどうなるの? もう、この写真に私の顔は戻ってこない。もう、直らないんだ。
 画鋲、四つ、ある。あそこにも数個ある。これをさしたらどうなるだろ。みんな怒る。私を怒る。私が絶対悪玉なんだ。
 いい。嫌いな人たちなんかに好かれたくない。徹底的に嫌われてしまおう。いいんだ。私は画鋲で殺されたんだ。おまえたちも死ねばいい。死ねばいいんだ。
 あと、画鋲十五個探さなきゃ。美術室にあるかも。じゃあ待っててね。今すぐ来るから。


新潟日報読者文芸欄 82年頃 掲載。
高校二年生のときに書いたものです。