「世の中にはこういうものを好きな人もいるんだよ」

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 山本リンダのテープをスキー旅行に持っていって(「うた」奇跡の歌参照)テープを止められた時に誰かが運転手に言った言葉。

 本当は記憶が曖昧で、別の時かもしれない。
 私は奇をてらった行動をしたいとか、自分の音楽の趣味を付き合いの浅い人達にアピールしたいタイプの人間ではない(と思う)。
 20代の頃、友人や同僚に誘われてよくスキー旅行に行った。そしてその際よく、「テープを持ってきて」とか「CDを持ってきて」とか言われた。その度に、私は、「無難で、私も聞きたいもの」を控えめに選りすぐって持参した。
 音楽の話など普段全くしないような付き合いの人がどんなものを持ってくるか、それはそれで興味のあるものである。もしかして嗜好が合う人がいたりするのではないか?とささやかな期待も抱く。しかし、殆どの場合そういうことはなくて、音楽教育をきっちり受けた育ちが良い人達が美麗な音楽に酔いしれることを強要するか、どうでもいいしょっちゅう聞く音楽を無頓着にまとめて聞かされるかだった。
 私の持ち物がかかる順番が巡ってくると、嬉しい反面いつも緊張した。どういう評価を下されるのかが気になって落ち着いて楽しむことができなかった。また山本リンダの時みたいに止められるのだろうか?
 いつだったか忘れたが、無難な線と思い、「プラスチックスBEST」と「太田蛍一の人外大魔境」を持っていったことがあった。今となっては、どう無難な線だったのか説明できないが、当時の私の持ち物で、車の中で聞くイメージならこれかな、という選択だった。しかも愚かにも、人外大魔境はともかく、プラスチックスは有名だから懐かしいと喜んでもらえるだろう、と考えて選んでいた。
 車の中で、それらはある一人の人にけちょんけちょんにけなされた。その人は、二つとも音楽として認めてくれなかった。「音」にこだわるその人に、その二つは非常にインチキに聞こえて不快だったらしい。
 また、その反省を生かし、本当に無難でみんなが知っているものと考えたあげく、井上誠プロデュースの「ゴジラ」のCDを持っていったことがあった。男性の技術者が多いから、特撮好きの人がきっと一人はいて擁護してくれるのではないかと期待していた。しかし、延々とゴジラの音楽を聞きたいほどの特撮好きは一人もいなかった。私は空気を察して他の人のCDに変えた。

 「世の中には、こういうものを好きな人もいるんだよ」
 別に私を笑い者にするわけでもなく運転手をなだめるように発されたその言葉は、参加するくせに結局うまく馴染めない私を象徴していて忘れられない。