きおく

　私は大学時代、「月曜ドラマランド」を大抵見ていた。その頃はあまり連続ドラマを見ていなくて、見る気になるのは1話で完結するものくらいだった。月曜ドラマランドは手を抜いて見るのにちょうど良い気楽さがあった。大抵アイドルが主役をやっていて、安い作りで内容もおおむね今一つ。でも、ファンは大喜びといったものだ。可愛ければOKてな感じ。
　だから、ポイントは「誰が何をやるか」だけだった。そう言う意味では石野陽子主演の「転校生」は、映画も知っているし、キャストが少しマイナーすぎやしないか？と、あまり期待をしていなかった。
　しかし、それは、とても面白かったのである。石野陽子もいい演技をしていたし、相手役の「女な男」を演じた少年もすごく演技が上手く歯切れが良い。女言葉が似合いすぎる。映画だと尾美としのりがやや気持ち悪かったが、月曜ドラマランドの場合、その少年くらい「漫画っぽい」演技がちょうど良かった。
　うーん、面白かった、また見たい、と私はその少年の名前を記憶した。「松野達也」である。
　「転校生」は続編も作られたり、月曜ドラマランドの総集編で、ファンの選ぶ第1位に選ばれた。並居る強豪アイドルを押しのけてだ。
　せっかく名前を記憶したのにもかかわらず、松野達也を見たのは、その月曜ドラマランドの「転校生」と、続編と、総集編の時だけだった。なかなかいないタイプだったのでかなり買っていたのに、芸能活動をしていないのだろうか、と気にはなっていた。
　その後しばらくして、中古レコード漁りをしていると、「松野達也」のアルバムがあった。アイドルかと見まがうジャケット。アルバムの帯には、「声優界のアイドル」だったか「貴公子」だったかそんな文字が踊っていた。「なんだ、この人、かつて声優もしていたんだ」
　そのアルバムはとりあえず記念に購入した。もう今は何の活動をしていないかもしれない、松野達也を忘れないために。

　最近、何かの連想でふとこの名前を思い出し、Webで検索した。するとびっくり。この人、現在は名前を松野太紀に改名して、声優として大活躍してるのね…。声優やアニメは守備範囲外なので、松野達也時代の仕事も全く知らなかった。なんだ、私でもさすがに知っている「金田一少年の事件簿」で「じっちゃんの名にかけて」「戦慄のディープブルー　ファイル１」とか言っている主役の少年、君かー。
　私は君のアルバムを持っているんだよ。「転校生」しか見てないのに。