ある日突然/三井ゆり

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 今更三井ゆり、と顔をしかめる人もいるかもしれない。女性にすごく嫌われているらしいので。

 私が三井ゆりを初めて見たのは新宿の小劇場である。何故だか知らないが、彼女は「うだつもない」というコメディに出ていた。出演者は他に須間一也、阪田マサノブ、大堀浩一等だった。私は当時ご贔屓の「Z-BEAM」と「健康」関係者が出るので行ったが、当日劇場が変更になっているなどかなりバタバタしていた。三井ゆりは、若くて可愛い子なら誰がやったってかまわないような役どころだった。私は彼女を「アイドルの卵かな?」と思った。他の出演者のような劇団関係者には見えなかった。あまりにも芝居と無縁な雰囲気だったからだろう。
 正直言って、あの日見た三井ゆりはとても可愛かった。体も細く、目がくりっとしていて、アイドルで言うならば栗田ひろみ、森尾由美の系列。かなり正統派だから、チェックしとこう、と思った。自分の見たマイナーな芝居に出ていた人が売れるようなことはかつて経験したことがなかったので、メジャーになってくれるのを期待していた。
 次に三井ゆりを見たのは車関係の雑誌の表紙である。私は「あの時の子だ!」と嬉しくて手に取り、プロフィールを読んだ。車好きであるということやレーサーの資格のこと等が書いてあった。私の記憶が正しければ年齢は19才になっていたはずである。それを見て私の期待はますます膨らんだ。まだ若いから大丈夫、先は長い。
 そして、その次に彼女は、当時私が沿線に住んでいて馴染みのあった京浜急行のキャンペーンガールになった。ポスターで見かけるとともに、TVにも京急キャンペーンガールとして出演するようになった。
 しかし、その時「あれ?」と思った。思ったほどTV映りが良くない。スタイルはそんなものだとしても、立ち方、歩き方が変だった。垢抜けなさ過ぎる。でも、まあ多少の変さは目をつぶって、いまどき珍しいアイドル顔だしなんとか人気が出てくれと願った。
 そんな私の願いも通じ、三井ゆりはどんどんメジャーになっていき、TVで見ることも増えた。最初のうちは三井ゆりが出ていると、「おっ」っと思って見ていた私も次第に「ああ、三井ゆり」程度にしか感じなくなっていった。さらに、サッカーブームに乗っかろうという戦略もなんとなく好きになれなかった。
 彼女の計算高さと顔や年齢には似合わぬ落ち着きぶりが少々反感をかい出しているようだった。その頃見る彼女はどうも私が最初生で見た可愛い人とは違う気がした。見るたびに違う人になるように感じた。私は疑問に思った。
「何でこの人はこんなに劣化が早いんだろう?」

 いつも思うのだが、年齢詐称というのは何故成り立つのだろうか。不思議でならない。帰国子女ならともかく、同級生はすぐわかる。近所の人達もわかる。ばれるのは時間の問題である。
 三井ゆりはある時突然、25才から29才になっていた。19才〜25才として生きていた時期は、実年齢で23才〜29才である。アイドルというより女子アナの年齢だ。年齢を詐称することによって彼女は人に嫌われるほどの個性があったけれど、別に実年齢を聞くと何の事はない、普通の人だ。
 はじめて見た時がピークだったのだな。三井ゆり。
 でも私は嘘でも楽しかった。どうもありがとう。