じいさんが走るドラマ

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 佐々木倫子の「Heaven?」3巻に載っていたセリフ「伊賀君、きみはじいさんに弱い」を読んで思った。私も多分じいさんに弱い。

 10代の頃、私はあるドラマのあるシーンを思い出すと必ず泣けた。だが、そのドラマを私は一度も完全に見ておらず、タイトルも知らなかった。ストーリもおぼろげで、完全に覚えているのはワンシーンだけだった。
 覚えていたストーリはこんな感じだ。じいさんとばあさんがいる。そして若い男女がいる。じいさんは病気で体が不自由。じいさんはその若い男の人を自分の息子だと思っている。だが、彼が自分の元を去ろうと出て行ったとき、じいさんは「うーうー」と唸りながら追っかけていく。で、死ぬ。
 私がはっきり覚えていたのはそのじいさんが追っかけていくシーンだけで、他の出演者が誰だったかとかさえ印象に無かった。じいさん役の俳優の名前も知らない。だから、私は自分の中で勝手に、「じいさんが走るドラマ」とそのドラマにラベルをつけていた。

 そのドラマはNHKで放映され、当時何度か再放送されていた。休みの日の昼間、ふと家族がつけていたTVドラマを見て、「あれ、これ、じいさんが走るドラマじゃないか?」と思っていると、実際その記憶のシーンが出てきたりした。
 また、NHKで老夫婦もののドラマが再放送していると「これ、じいさんが走るドラマか?」と恐る恐る見て違っていたりということもあった。

 最近はもうそのドラマの再放送も全く見かけなくなり、記憶力の無い私の頭からは完全にその「走るシーン」以外は抜け落ちていた。だが、先日何気なくテレビ欄を見た瞬間、ものすごく懐かしい気持ちになった。キーワードは「極楽家族」「ミヤコ蝶々」。そうだ、ばあさんはミヤコ蝶々だった。じゃあ、もしかしてこれはあの、思い出しては泣いた「じいさんの走るドラマ」か? これは絶対確認しなくてはならない。そしてあわてて、その深夜のNHKアーカイブで放映された「極楽家族」を録画した。
 が、ビデオの時計が狂っていたのか、録画は途中で切れていた。そして、それも何の因果か、じいさんが走って倒れたところで切れた。
 じいさん役は「若宮大祐」。今度こそ覚えた。

 余談だが、「極楽家族」の主題歌は岸田智史の「つづれおり」。当時、このシングルレコードも買って持っていた。そこまで入れ込んでいたのに、しかも歌詞カードに「極楽家族」テーマと書いてあったはずなのに、「じいさん」しか覚えられない自分が情けない。